Awesome Xamarin (技術書典5新刊情報)

無職になっても生活が在職時とほとんど変わらないatsushienoです。それって単に給料が入ってこなくなっただけじゃないか…?自由な生活たのしい!!!1

戯言はさておいて、9月は多くの時間を10/8の技術書典5に向けて費やしていました。そのうちのひとつは今日お知らせするXamaritans名義の新刊です。

Xamaritansの配置は「う-78」です。詳細は技術書典Webサイト上のサークルページをチェックしてください。

タイトルは「Awesome Xamarin: この素晴らしいXamarinの世界」です。

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(今回はまたイラストをお馴染みの(?)絵師に描いてもらいました。今まではアナログ絵の取り込みだったのですが今回はペンタブで描いたらしい…)

内容ですが、今回は完全に1人で書くことにしました…というと何やらそのような意図でやったように聞こえるのですが、単純にまともに原稿募集を出していなくて(もうしわけない…)、結果的に1人で全部書くことになったのでした。本当は30ページくらいのコピー本にしようと思っていたのですが、最初に出来たクロスプラットホームGUIの話がデスクトップ中心でイマイチだったので、もう1本書いてみたらあまりにもXamarinと関係ないNDKの話になってしまって、ビミョイかな…とますます困ったのでした。そうこうしているうちに、mono project blogからクッソおもしろいネタが投下されたんですね。

これはmonoランタイムのJIT相当部分をC#で実装できる、という話なんですが、これはちょうどいいと思って、ついうっかりこの話を理解するために必要そうなJITというかコード生成エンジンの話を書き始めてしまったんですね。

割といい感じにまとまったと思ったんですが、ここで出来上がった原稿は(1)x-plat GUI(しかも割とデスクトップ中心) (2)NDK (3)JITXamarin要素ほぼゼロじゃんAwesome Xamarinとは何だったのか…

…というわけで、急遽(4)「Xamarin.Androidバインディングを極める」を書いて何とかそれっぽく誤魔化し(!?)、NDKの章は削って他で再利用することにしました(こっちは告知できるようになった段階で出します)。

そういうわけで、今回のネタは次の3本です。

(1) Xamarin.Android バインディングを極める

自分が一時期主に開発していたAndroidバインディング・プロジェクトについて、実用的なプロジェクト構成から細かい説明、各種ビルドエラーの対策(この辺は去年シンガポールでやったセッションの焼き直し)などを30ページくらい書いてまとめました。本当は個人的に構想していた未来形の話も書きたかったのですが、今後それを推し進めることになる気があまりしないので、ほぼ現状の話でまとめてあります。

(2) Mono.Compiler API を理解するためのMono JITエンジン解説

去年のde:code2017でもある程度コード生成エンジンの話をしましたが、アレはJITの話としてはほんの序の口です。JITが何をしているのか、miniとは何なのか、llvm実装とそうでない実装はどう繋ぎこまれているのか、CILはどのように実際のマシンコードに置き換えられているのか(Linear IR)、コードはどう最適化されているのかといった話を「もう少しだけ」掘り下げます。SSAレジスタアロケーターのspillingに言及はするが深入りはしない、という程度です。AOTも関係あるんだけど、最終的には「JIT」って章タイトルに入っているほうが分かりやすいだろうと思って「JIT」としました。自分で言うのも何ですがこの章が一番おもしろいです。

(3) Mono ・ XamarinクロスプラットフォームGUIの軌跡

MonoチームがXamarin.FormsのようなクロスプラットフォームGUIフレームワークを実装したのは、これが初めてではなく、大昔にはWindows.FormsをLinux/Mac向けに実装したり、その後今でも現役で使われているXwtを開発したりしてきました。またGtk+も今や…というか10年以上前から…クロスプラットフォームGUIツールキットであり、実装上の知見を得てきたフレームワークです。これらをきちんと振り返った上で、今Flutterのような新しいGUIフレームワークをどのように捉えるのか、Xamarin.Formsには何があって何がないのか正しく語るために知っておくべきことは何か、といったことを考察するための起爆剤として書いた章です。一部はde:code2018でXamarin.Formsについて語った内容も含まれています。

最終的におよそ90ページという、予定の3倍くらい厚い薄い本になってしまったのですが(完全に予言されたとおりになってしまった…)、いつも通り1000円で頒布しようと思います。技術書典5、スタッフとしても作業していますんで(こっちも大変…)、ぜひ皆さん来てください。Xamaritansは「う-78」です(サークルページ)。

"language server protocol explained" at COSCUP2018

台湾でおそらく一番でかいオープンソースのカンファレンスCOSCUP 2018でlanguage server protocol (LSP) explainedというセッションをしてきたので、その辺に関係する話を軽く書きます*1。当日は英語のセッションなのに30-40人くらいの人に来てもらえたので、それなりに関心が集まるトピックだったのかなと思います。

speakerdeck.com

もはやスライドのテンプレートすら選ぶ気のない感じのGoogle Slidesですが。

LSPがざっくり何のためにあるのか、language serverが何をするものなのか、何でprotocolなのか、どんな命令があるのか…といった部分は以前にqiitaにまとめた通りですが、今回は応募したセクションの趣旨が "read the source code" だったこともあって、少しvscodeで実装するやり方を説明しました(もちろんvscodeに固有のものではないことはたびたび言及しました)。vscode自体、まだLSPはJSONCSSみたいなおもちゃレベルのものしか提供していないので*2、引用するのもvscode-languageserver-cssが中心だったのですが、まあ逆に現状使えるのはこのレベルの言語かなという雰囲気が伝わったほうがいいかなと思って(自分の中では)納得しました。

わたし自身も、C#で自作MMLコンパイラのLSを(途中まで)作ったので、一応それが動いているのを見せつつという感じでした。C#のサーバが動いているのはどうでもよくて、vscodeデバッグコンソールのようなところにJSON-RPCの生メッセージが出てくるのを見せた感じです。これが出てくると割と面白いです。

ただ、LSPの仕様自体がまだ割といいかげんで、特にlocationやrangeみたいな情報の要求が、どこまで求めるべきものなのかを記していなかったりするので(たとえばトークンのrangeのendなんて割とどうでもいいと思うのですが、無いとvscodeがまともに処理してくれなかったりします)、まだまだ真面目に相互運用性を期待して手を出せるものじゃないなあという印象です。

あとC#のLSPライブラリに関して言えば、MSが出しているライブラリは依存関係にMicrosoft.VisualStudio で始まるプロプラエタリなパッケージがあってNG、omnisharp-vscodeはまだ激しく発展途上で実際ビルドしてテストを通そうとしたら通らないレベルだったのでNG…という感じで、いのまたさん(id:matarillo)の実装を使わせてもらったりしています。将来的にはもしかしたらomnisharpの実装の完成度が上がるのかもしれませんが、現状ではいのまたさんの実装がベストです。vscode-languageserver-nodeなどはもう少し実装ヘルパー的なものも持っているので、この辺はわたしがC#版のコンパイラまわりを本気でやることがあれば貢献できるといいなあという感じです。*3

というわけで、ひと段落ついたので、いろいろ残件を片付けつつ遊びに入りたいと思います(!)

*1:本当は「後編」を書こうと思っていたのだけどなかなかまとまらなかったというのは内緒です

*2:CSSパーサーをおもちゃレベルというのはちょっとひどい気もしますが、LSPにユーザーが期待するのはこのレベルではないはずですよね

*3:いまこのコンパイラvscode拡張は優先度が高くないので後回し状態ですが…

Leaving Microsoft

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7月30日を実質的な最終出社日としてMicrosoftを辞めることにしました。と言っても「出社」なんてしていないので*1、業務でXamarinの開発に携わるのはこの日が最後だった、という意味合いです。社員としての最後のcommitはコレになることでしょう。

プロジェクトに参加したのが2002年、Novellに入社したのが2003年、それ以来15年間も業務でMono Projectおよび関連プロジェクトの開発に携わっていたことになりますが、それにひと区切りを付けたということになります。長いですね。Microsoftでの2年と1ヶ月など自分の経歴ではオマケでしかないですし、Xamarinの開発ですら2011年からの7年間なので、それでもこの仕事の半分以下ということになります。

何で辞めるの?

いろいろありますが、今日はクリーンでポジティブな話だけを取り上げて書きたいところですが、「Microsoftに」所属して活動する意味はほぼ無い、と判断したからです。これまでMonoを生業の中心としてきたわけですが、Monoはオープンな開発コミュニティであり、MSに所属して関わっていく必要性は全くありません。まあもちろんMSから給料は払われなくなるわけですが、今でもMonoにコミットしているのではなく、Xamarin製品の仕事をやらされているわけで、その意味ではどこでどうしていようが変わりはないと思っています。

人はおよそ「自分を雇用する資格のある会社」に所属すべきです。

巨大企業の官僚主義に利用されることなく、伸び伸びと自分のやりたいことを最適なやり方で実現するためにcontributeするなら、自分のみの意思でできることが重要ですし、自分のコードに集中する自由もしっかり確保しておく必要があります。

あと、自分の周りで「気持ちよく」「楽しそうに」仕事している友人が増えてきたので、自分も「仕事だから…」と思って我慢して踏みとどまるのは良くない、と思うようになったことは大きいです。その意味では、Miguelと一緒に「仕事」しなくなるのはちょっと残念ではありますが、それはMonoコミュニティにcontributorとして参加していれば大して変わらないかなと思っています(Androidチームとしては彼との関わりも現状ほとんど無いですし)。社内のメンバーの何割かは同様にむしろ同僚というより友人なのですが、これからも続く縁はあるでしょう。

しかしいずれにせよ、やることをリセットするのであれば、すぐに仕事につくより、むしろ満を持して無職をエンジョイする勢になっておかないと…!というわけでまずそこからスタートです。Xamarin.Forms本の作業などもそうですが、今の立場にいると無駄に雑多なタスクが入ってきて趣味の活動を妨げるので、そういうものをひととおりリセットして*2、自分のやりたいことに使える時間を大事にしようと思っています。まあ別にそっちに全振りするわけではなく、全振りしなくても無理なく継続していけるライフスタイルが重要です。

これからどうするの?

8月以降の仕事の予定はありません。とはいえ、8/11には台北のCOSCUP 2018で登壇しなければならないので台湾に渡りますし、当日まではいろいろ準備しなければならないでしょう。それが終わったら技術書典5の手伝いなどをしながら、音楽ソフトなどをいじって遊んで暮らす予定です。

XamarinにはMonoDevelopの商用アドインやデバッガーなど、プロプラエタリに提供している部分がそれなりにあり、それらはわたしの興味の範囲外なので、非OSS部分が無いとコードが維持できないレベルになってきたら、他の言語やフレームワークに乗り換えてやっていくつもりです。特にわたしは中の人特権でLinux上でIDEアドインを無理やり動かしていたわけですが、それが使えなくなるので、これは早々にそうなるかもしれません。

モバイル以外の、MonoやMonoDevelopGtk# 3やXwt、Workbooksなどはオープンなので、そういった懸念は小さく、引き続き使っていくつもりです。作っているものによっては他の言語に移る可能性ももちろんありますが。.NETはみんなが思っているほどオープンソースではないので今後やっていくかどうかは分かりません。

今後も(Xamarinも含めて)Monoコミュニティに一番縁の深い日本人として、日本で起こっていることなどをXamarin本家にいろいろ連絡したりしながらやっていくでしょうし、コードなどにcontributeしたいけどどう参加したらいいかわからない…! みたいな人がいたら、これまで通り(?)サポートしますんで、お気軽にご相談ください。基本的には暇人になりますんで。

*1:ごめんなさい、こういう時何て言えばいいかわからないの…

*2:幸い書籍の方は出版の目処が立っています

GitHubの買収とオープンソースコミュニティについて

6月2日にmicrosoftgithubを買収する噂が流れて、3日には確定情報として流れて、4日には正式発表があった。これに対しては歓迎する声から悲しむ声、非難する声などさまざまな反応があった。この反応の一部が、どちらの方向についてもあまり良くないと思っているので、可能な限り問題のある反応を潰しておこうという意図でこれを書くことにした。

ちなみに、笑える反応としては、githubにアクセスするとClipperやカイル君が出てくるようになるみたいなジョーク画像の類があるけど、これを集めているとキリがないし今回はきちんと論じたいことがあるので、その辺は他所に任せたい。

それはさておき、これは長い文章(になる予定)なので、最初にふたことで要約しておきたい:

  • 新CEOのNatは割と信用できるやつで、きっとGitHubを上手くやっていってくれるので、もしMSというだけで疑っているだけならちょっと人柄を知ってほしい
  • OSSにはさまざまな立ち位置で関わってくる人がいるのだから、それぞれの立ち位置にきちんと思いを巡らせてから発言するべきであって、買収に否定的な向きを「アンチMicrosoft」などと単純化して物事を見誤ってはならないし、それに基づいてOSSコミュニティを攻撃するようなことは決してするべきではない。

新しいCEOについて

今回はポジショントークになる部分があるのでハッキリ書いておきたい。わたしにとっては基本的に他人事だけど、他人事気分でいられない事情として、新しいCEOとしてXamarinのCEOだったNat Friedmanが就任する。NatはもうXamarinを率いておらず組織上も関係ないのだけど、当然ながら彼がCEOとして手腕を発揮しているところをこの目で見てきたので、完全に身内の主観的な立場にしかならないので、彼が優れたCEOであることを喧伝するし、読者にはわたしがそういう目線で書いていることを意識して一歩引いて評価してもらいたい。彼の功績の例については5年前に詳しく書いている。

NatはもともとMiguelと一緒にLinuxデスクトップの会社であるところのHelix Codeを立ち上げてNovellに買収されるところまで成長させたfounderであり、彼自身もdashboardというデスクトップ検索のプロジェクトを立ち上げたりしていたし*1Novell時代にもOpenSUSE Build ServiceやSUSE Studioのようなビルドサービスを立ち上げてきた人間だ。VS AppCenterとやっている/やりたいことは近い。

Natはgithubを現状と同様にオープンな状態を維持していくと語っていて、これは抽象的な言い分だからどれくらい信じるか、何を信じるかはわたし自身も全面的に肯定することはないし*2、誰しも「他人がMSを信用しないこと」に対して文句を付ける筋合いは無いと思っている。Natもそう思っていて "I'm not asking for your trust" と言っている。言葉ではなく実績で信頼を維持していくというやっていきの姿勢だ。

Xamarinは商用製品で成功した会社だし、その成功モデルは別にOSSの成功モデルではないから、Xamarinで成功したからといって直ちにGithubの信頼を得られそうだということにはならない。コミュニティの信用の見込みの期待値を過剰に高めることについては、わたしは適切ではないと思っている。

githubに関するいろいろな前提の説明

gitの非独占

githubは、ソフトウェアの設計図ソースコードをgitリポジトリで公開したい人たちのためのコミュニティサイトであり、gitリポジトリで管理したい人たちのためのサービスである*3

gitはソースコードのいわゆるバージョン管理システムで、「リポジトリ」が開発開始時からの全てのソースコードの履歴を保持する。gitの大きな特徴は、リポジトリが簡単に複製でき、複数のリポジトリ上で分散管理できるということにある。gitというソフトウェアの立ち上げ人はLinuxを立ち上げたLinus Torvaldsであるが、彼がgitを作ることになったのは、Linuxソースコード管理ツールとして使われていたBitKeeperというソフトウェアがプロプラエタリで、さまざまな不利益をコントリビューターに強いていたからである(詳しくはWikipediaの説明などを参照されたい)。git以前にはSubversionというものがあったが、これはLinux開発に耐えるものではないとされていた。

gitはBitKeeper依存への反省をもとに、リポジトリのあらゆるクローンが単独で完結する仕組みとなっている。githubにあるリポジトリは、アクセスできるユーザーが全て複製してローカルで再現できる。githubリポジトリをいったんクローンして、githubの競合企業であるgitlabにpush(アップロード)のは、完全にgitが想定している使い方である。git自身もOSSとして公開されていて、Webサーバーさえあれば誰でもリポジトリをWebに公開することができる。

githubの"openness"

githubは、そこで管理されているソースコードを、本質的には独占できない。独占していると言えるのは、最新版の開発拠点になっているということと、他のソフトウェアへの依存関係(後述)があることと、変更修正依頼(pull request)や問題報告(issues)などgit以外の開発支援機能があるためである。githubはissueなどもエクスポート可能にしていて、実際gitlabはこれらを取り込むことが出来る。

githubで公開されるソフトウェアはいわゆるOSSである必要はない。ソースコードを公開することは、それが「オープンソース」の定義に準ずるライセンスで公開されていることを意味しない(Microsoftは、過去に「OSSではない」と指摘された"Shared Source" CLIを、githubで公開することができる)。しかし、公開されているソースコードは誰でもcloneしてコピーを個人的な範囲で自由にでき、あるいはgithubの登録ユーザーがforkして自分の管理下に置いて公開することが出来る(これは利用規約にそう書かれているので、たとえばソースを公開しつつ「転載禁止」とすることはできない。少なくともgithub上には転載されうる)。プライベートリポジトリを作成しておいて、そこへのアクセスを別途登録ユーザーに対してのみ開放するようなトリッキーなこともできる(たとえばEpicGamesのUnrealEngine)。もう少し補足すると、githubでは課金ユーザーがプライベートリポジトリを持つことが出来るし、無課金ユーザーでもorganizationを作って複数アカウントでグループを運用することも出来るが、organizationのプライベートリポジトリはEnterpriseなどの契約を結ばないと作成できない*4

githubはもとより営利企業であって、github.comはプロプラエタリなサーバーソフトウェアによって動作している。GitHubMicrosoftになるからといって、オープンであったものがプロプラエタリになったりするわけではない。GitHubはもともとOSSコミュニティに対してそれなりに積極的な支援の姿勢を見せてきたが、これはあくまで彼らの主観的な方向性であって、Natが指揮するGitHubも同様であると言われている(主観的な議論なので、客観的な成果は今後を見て評価するしかない)。Natが過去にOSS方面で一定の活動をしてきたことは考慮してもよいし、しなくてもよい。会社や立場が変われば事情も変わるはずだ。

オープンソースステークホルダーについて

developers, users, promoters, and co.

わたしがたまにセッションスピーカーとして参加していた台湾のカンファレンスにCOSCUPというものがある。正式名称を Conference for Open Source Coders, Users and Promoters というもので、長々しくて面食らうかもしれないが、オープンソースのコーダー(開発者)、ユーザー、広告屋(プロモーター)を参加者とするイベントである。まあ名前が幅広く「ユーザー」や「広告屋」(つまり非技術者)までカバーしていても、実質的には開発者向けイベントの側面が強い*5。しかし、ここで気付いてもらいたいのは、「オープンソースのコミュニティ」にはさまざまなステークホルダーが存在する、ということである。githubの運営会社が変わると、開発者が歓迎することであっても、そのユーザーにとっては面倒が発生するということがありうる。

OSSのソフトウェアは多数公開されているが、単独で完結していないものが多い。ソフトウェアには依存関係がある。ソフトウェアは割とソーシャルにできている。だから、自分がGitHub社やMicrosoft社と特に無関係であっても、自分のソフトウェアが依存しているソフトウェアの開発者や、あるいは逆に自分のソフトウェアに依存している開発者が、何かしらの利害関係を有していると、自分も無関係ではいられないことになる。

Are OSS people really opponent?

githubの買収に否定的なのはOSSコミュニティである、みたいな言説がよく流れていて、これが正しいかどうかはおそらく誰も検証していないと思うが、いくつか指摘しておくべきことがある。まず「オープンソース」は「フリーソフトウェア」とは違っていて(概念的にはフリーソフトウェアOSSに含まれる)、フリーソフトウェアの開発者や支持者のうち原理主義的なユーザーは、以前からプロプラエタリなGitHubも拒絶しているのである(たとえばRichard Stallmanはこうだ)。少なくとも利用していることがライセンス上矛盾しているとまでは言えないので、そこまで求めない関係者も多い。AGPLの思想とは相容れないとは言えそうだ。

フリーソフトウェア原理主義的であるかは別として、OSSコミュニティでgithubのようなサービスを使って「いない」ところも実はかなり多い。gitサーバーは自前で立てることもそれなりに簡単にできる。過去にはsourceforge.netがOSSのハブとして機能していたこともあって、今でもsf.netを使っているプロジェクトもまれにある。もっともsourceforgeマルウェア組み込み事件など多数の問題を起こして、だいぶ信用を失っていった。他には、GNU Projectではsavannahというサービスを提供している。githubの競合相手でもあるgitlabは、自分たちのソースコードを公開していて、これはgithubよりはフリーソフトウェア支持者の思想と相性がよい。GNOME ProjectはLinuxデスクトップの大手だが、github買収騒動のほんの数日前に(記憶が正しければ、自前ホスティングから)gitlabに移行した。

githubそのものは、特に技術的な「色を付ける」ことをしていないが、実際には「githubリポジトリがある」エコシステムとそうでないエコシステムがあって、githubだけを見ていても実際の技術トレンドが正確であるとは言い難い。ざっくりとした評価にしかならないが、旧くからあるUnix系のライブラリやツールはgithubを使っていないことが多い。Web系の技術ではよく使われている。githubに一番コミットしているのは今回の当事者であるMicrosoftらしいが、では.NETが開発の主流かというとそんなことは無い(MSはvscodeやTypeScriptも公開しているので、これらも大きな割合を占めている)。しかしいずれにしろ、GitHubMicrosoftのものになって、Microsoftが.NETのリポジトリを特にプロモートするようなことになったら、githubからある程度の技術トレンドをフェアに推測することすら出来なくなる。Microsoftには会社全体として統計を偏らせるインセンティブがあることは否めず、githubは不信感を持たれないように機能を実装していく必要があるだろう。

何度でも書くが、いくらNatが「信用してほしい」と言っても、その信頼性が高いと言っても、それを信じない人には信じない正当な理由がありうる。だからこそNatは「信用してほしい、とは言わない」と言っているのである。彼はこの点とても率直で誠実に事に当たろうとしている、とわたしは考えている(もちろん「だからGitHubの運用も信用してほしい/したほうがよい/しないのは不当に疑り深い」などと書くと彼の言葉選びが台無しになるので、わたしも書かないし、そういう主張をしている人にはNatの真意を汲み取ってもらいたいと思う)。

gitリポジトリは複数のサーバーに複製できるので、githubに「ミラー」を作られていることが多い。AndroidLLVMGNU各種プロジェクトなど、ポピュラーなOSSプロジェクトは、たいがいgithubにミラーが置かれている。これらはあくまでミラーであって本家ではないので、それらのソフトウェアの開発者自身がGitHubからMicrosoftへの体制変更で影響を受けるということにはならない。しかし前述の通り、OSSにはさまざまな立場で関わってくる人がいて、その中には「githubにあるミラーを依存リポジトリとして活用している」という人もいる。彼らが体制の変更について文句を言って聞いてもらえる立場であるかどうかは別途検討を要するが、利害関係があることに変わりはない。

しかし、「OSSコミュニティが文句を言っている」という字面から想像されるような構図は、こういった実態を踏まえて考えると、実のところ違和感しかない。

立場が逆であったらどうなっていたか考える

XamarinはMicrosoftに買収されるまではGoogleサービスを使っていた。メールはgmailでやり取りされ、Calendarも自然にGoogleが使われていた。Microsoftになったことで、Googleは使えなくなってしまった。社外秘のメッセージをこともあろうにGoogleに読まれるようなことになったらまずい、ということがあろう*6githubではプライベートリポジトリを使って非公開のソフトウェアを開発してソースを管理できる。GitHubが競合相手だった会社は多くないが、経営主体がMicrosoftとなれば話は変わる。

AppleGoogleなどは、元来github以外でソースを管理していて、直接的な影響を受けることはないかもしれないが、いずれにしろ、利害関係者の幅が格段にひろがるのは紛れもない事実である。githubからリポジトリを撤収しなければならないという判断を下す会社もあろう。Wiredの記事では、cycle.jsの作者はリポジトリをgitlabに移行したというし、JetBrainsは今後もgithubを使い続けるとしている。今回の動きについては、間違いなくMicrosoftのアクションによって引き起こされたものであって、OSSコミュニティの一部の反応にも理がある。これを「MS嫌いの」OSSコミュニティが文句を言っている、と評価するのは筋違いである。cycle.jsが移動するなら、cycle.jsにまつわるライブラリのリポジトリも移動するかもしれないだろう。

もしMicrosoftではなくたとえばGoogleGitHubを買っていたら、Microsoftリポジトリを撤収したかもしれない(わたしはdotnetグループに属していないので彼らのorganizationのリポジトリは見えないが、.NET Coreの開発はgithubで行われているようだし、プライベートリポジトリがあって何かを準備していたとしてもおかしくはない)。立場が逆だった時に「MSは未だにGoogleに反感をもっているのか」と言われたらどう思うか、考えてみるとよい。

多様性の尊重と哲学の相違

直接の利害関係が無いとしても、SCMビジネスの世界におけるパワーバランスが極端に変化するのを、健全な競争社会のあり方として懸念して、少しでも以前の状態に近いかたちに戻そうとする人もいることだろう。わたしもそのような行動を取ることがまれによくある。Twitterによる独占を懸念したMastodonユーザーもいたはずだ。こういう声に対しては、わたしは引き止めるために言えることは何も思いつかない。リポジトリだけなら独占することは出来ないんだし両方使っていても別にいいんじゃない、くらいのことは言うかもしれないが、開発者としては明らかに無駄だろう。ミラーを用意するのは誰でもいいはずだ。

これですら、別に「Microsoftが嫌い」だからそうしているわけではない。わたしは好んでFirefoxを使っているけど、Googleが嫌いだからChromeを使わないわけではない。

Microsoftが嫌いだ/信用できないから使わない

もちろん世の中にはMicrosoftが嫌いな人もいるだろう。わたしは個人的にNadellaはとてもよくやっていると思っているし、彼が指揮している部分のMicrosoftは積極的に支持しているが、ハラスメントやスキャンダルに満ちた会社や組織は決して支持しない。MSに親を殺された人間*7に「2018年にもなってまだMSが嫌いとか言ってるのか」みたいな無神経なことは言えないだろう(少なくとも真人間であるわたしには出来ない)。各々には各々の理由があって好き嫌いがあるのであって、それが無知によるものなら具体的に啓蒙すれば良いことだし、個人的なものであるなら(法規範などルールに牴触するものでもないかぎり)他人があれこれ口出しするほどのことでもない。そもそも他人に口出しする前に自分を省みるべきである。

diversity and inclusionを維持していくために

長々と書いてきたが、GitHubから他所へ移行しようという人たちも、おおよそMicrosoftが「嫌い」だからそうしているのではないし、Microsoftが「嫌い」であるという人たちにも相応の理由があってそうしているということをわれわれは尊重しなければならない、ということを書いた。

今回わたしが観測した中には、OSSコミュニティに対する侮辱意識をもって誹謗中傷しているようなのもあったのだけど、こういう、非マイクロソフト的な態度の人間には噛み付く「マイクロソフト騎士団*8」のような姿勢は歓迎できない。Nat Friedmanが6/7に行ったreddit AMA (ask me anything)のこの回答は、自分たちに否定的な立場をとる開発者たちについても、真摯な姿勢を見せている:

"Developers are independent thinkers and will always have a healthy degree of skepticism, but I admit I was sad to see that some felt compelled to move their code. I take the responsibility of earning their trust seriously. (...) I hope those who have tried out other Git hosts in the past few days will keep an open mind and consider moving back once we’ve demonstrated our commitment to openness and made GitHub even better. If they choose not to move back, that’s their prerogative and we celebrate developer choice even when developers don’t choose us."

(強調筆者)

Natは開発者(特にOSSコミュニティに近い開発者)というものがどういう人種であるのか、よくわかっている。こういう姿勢を見習ってほしい。

Microsoftの社是はempower everyoneであり、それをもう少し具体化した指針のひとつにrespect diversity & inclusionというものがある。さまざまな立場の人たちを受け容れ、サポートしていくことが、現在ではMicrosoftらしいやり方なのである。

最初から中立的な存在であったGitHubに、今さら新しいMicrosoftの良いところを取り込んでもらいたいと思うようなおこがましいことはないが、新しい組織体系になっても「旧」に腐食されること無く、より価値をたかめていってほしいと思っている。

*1:この辺はわたしは遠巻きに眺めていた程度にしか知らないのだけど、その後Beagleに繋がっている。Beagleハッカーはその後何人もGoogleにさらわれてしまったのだった…

*2:たとえば、わたしはacceptableだと思っているけど、ページのトップに早速合併を報告するバナーが出てきたことを取り沙汰する向きはtwitterではそれなりに観測された。これを「良くない」というユーザーもいることだろう。

*3:公開は無償で、管理はプライベートであれば有償で、それぞれ行えるものなので、ここでは区別した。

*4:これは関係者にしか意味がないけど、Xamaritansの技術書典用のリポジトリがわたしの個人リポジトリになっているのはそういった事情がある

*5:この辺は「技術カンファレンス」を標榜しているのに実際には非技術者向けイベントと化しつつある日本マイクロソフトのde:codeなんかとは真逆の感じになっている。

*6:そこまでは言わないかもしれない。Googleは決してそんなことはしないだろうという一般的な推測がはたらくが、リスク計算はされる

*7:間接的な理由を含意するネットジャーゴンとして読むこと

*8:マイクロソフトシンパと書いたら主語がでかすぎるとコメントをいただいたので表現を変えた

Xamarin最新情報2018 (de:code2018) の補足情報

de:code2018が何とか終わりました。イベント自体にいろいろ問題はありましたが、とりあえずそれはおいておいて、わたしのセッションに来ていただいた方はありがとうございました。

スライドはこちらで公開してあります(イベント事務局側でも録画とpptを公開するんだと思います)。当日に「期待していた内容と合っていない…!」みたいな事故を防ぐために数日前にプレビュー版を事前公開していましたが、そもそもtwitterで事前チェックの発言を発見した人がいたかどうかは不明…

speakerdeck.com

事前に軽くしゃべってみたら80分くらいかかってしまったので、いろいろ削って、でもストーリーラインは何とか残しておこうとなった結果こんな感じでしたが、いろいろ端折ってしまったので、ちまちま補足しようと思います。

Ooui.Wasm

デモの手順はほぼOouiのwikiに書いてあるとおりです。Webサーバはこれと同様にdotnet-serveをインストールして使いましたが、Webサーバであれば何でも良いので、たとえばWeb Server for Chromeなんかでもいけます。

中に入っているmono.wasmやらmono.jsやらは、Oouiがmonoのwasmサポートのビルド済みアーカイブをダウンロードして使っていて、その場でビルドしているわけではありません(monoランタイムはでかいのでかなり時間がかかるはず)。ちなみに.NET Coreコンソールアプリで、Linuxからでもビルドして実行できます(Workbooksを動かそうと思ったのでMacにしましたが、そうでなければUbuntuでセッションやるつもりでした)。

デモで使用したバージョンは0.10.222でしたが、この中で使われているXamarin.Formsは2.5です。せっかくWebなのでFlexLayoutを試そうかなあなどと思ったのですが、実装されているかを確認する以前の問題でした。

ちなみに、wasmを使うものではないのですが、HTML5ベースのCanvasを使ってブラウザ上にGUIレンダリングしようというプロジェクトは他にも、というか大昔から存在していました。gtk-broadwayというやつです。これはクライアント1つにつきWebアプリのセッションを1つ使うもので、あまり現実的に使えるものではなかったと思います。PoC (proof of concept)としては面白いというやつです。あとUnityのWebGL projectなんかは概念的には近いものになっているんじゃなかろうか。

あとOoui.Wasmがこれだけ動かせるんならControlGalleryくらい動かせるんじゃねーの…?と思って自分でプロジェクトを作って移植してみたりしたのですが、実行時に謎のエラーになり、冷静に考えたらFormsのmasterからとってきたサンプルであるところのControlGalleryが2.5のやつで動くわけねーな…!ということになりました。試すまでもなくlimitationsがどこかにまとまっていたのですがちと今すぐ見つからない…

Workbooks

Workbooks。2006年頃から存在していたC# interactive shellを中心としたツールの現在の姿であるといえます(当時はMono.CSharp.dllでしたが、現在ではRoslynです)。C# interactive shellがVSに載ったのが3,4年前くらいだと思うと、この方面のmonoのイノベーションはRoslynの7,8年くらい前には起こっていた感じです。

ASP.NET Coreで作られたWeb版ですが、Reactアプリです。まだ鋭意開発中のやつです。デモでも再現したのですが、いったんコードの文法ミスなどでREPL実行がエラー評価になるとどこかで非同期処理がバグっているらしくdotnet runを再実行しないといけなくなる状態です。ちなみにmasterブランチで出来ます。トップディレクトリでdotnet buildを実行した後、Clients/Xamarin.Interactive.Client.Web/ ディレクトリでdotnet runするだけです。

WorkbooksはC#オブジェクトを結果として表示するとき、デフォルトではプロパティリストのようなかたちで表示することになるのですが、これをカスタムレンダリングすることも可能です。この場合のレンダリングとはHTML文字列なのですが*1、この辺の仕様はドキュメント化されているものの、まだプレビュー状態で、しかも開発者と相談していたら「これからReactコンポーネントに書き換える予定だから今はやめとけ」と言われたので、この辺で遊ぶ予定だったのですがあきらめました。

デスクトップ側も動かそうとして失敗したわけですが、agent側のアプリも終了しないとクライアント側だけ切って再起動とかやってもそのクライアント セッションでは二度と立ち上がらなくなるようなので、この辺の接続状態の試験シナリオが足りていないのでしょう(まあ普段agentを落とす必要は無いのですが…)。

ちなみにデスクトップ版ではFormsも試せるのですが、これはバージョン2.5固定です。3.0のnugetパッケージなどに更新したら期待通りには動作しません。これはWorkbooks agentが固定バージョンを想定して作られているためです(そうしないと挙動をうまく制御できなかったらしい)。WorkbooksでFlexLayoutのデモをやろうと思っていたのですが、これもあきらめました。ただ開発チーム的には2.5でないと困る理由はなく3.0にしたいと言っていたので、そのうち上がるでしょう。

FlexCSS

ReactNativeでyogaが使われていて云々については、Cheap Dive into React Native (booth)に書かれていた話で、これがR/Nの中身を知るのにはよさみがあるので、興味がある人は読むといいでしょう。

CSSをサポートに対してXAML至上主義者がネガティブだという話、具体的にはこういうのを見てもらえればわかると思います。わたしは今後一切XAML至上主義者を助けまいという気持ちになりましたが、これはあくまでわたしの意見なので、壇上ではそこまでは言いませんでした。ちなみにBuildのForms 3.0のセッションでも「否定的な意見も出てくるのだが…」くらいのニュアンスでそういう話を紹介しています。

XAMLまわりもWPFもそうなんですけど、Windowsチームが作っているものって、.NETチームが作っているものと違って、2018年になっても何もオープンソース化されないんですよね。.NET Core 3.0に追加されるというWindows desktop packもバイナリ配布ですし。VS/VSMac d15.7におけるXAMLサポートの拡充も、そういう状況のもとで行われているんだ、ということは、もっと知られてもいいのかも。

XAMLに生き残らせる価値があるのか、よく考え直す時期に来ていると思います。

LiveReload

hot reloadの類型である、という話をして紹介したのですが、stateとviewの分離が重要である、という話をもっと強調しても良かったかもしれません。FlutterのHot Reloadのページにも、"sometimes described as stateful hot reload,"と書かれているように、実行中のstateを維持したままviewの変更を反映する、という意味合いの強い機能であり、だからXAMLのLive Reloadなのであり、MVVMに準ずるviewとstateの分離が重要なわけです。

現状XAMLのみのサポートですが、理想をいえば、Elmish.XamarinFormsのようなXAMLAPI呼び出しもコード分析して反映できるとうれしいでしょう。まだコードを読んでいませんが、flutterのhot reloadはそういうDartの実装が含まれているのだろうと理解しています。

Android StudioにはInstant Runという機能があり、これにはcold swap / warm swap / hot swapという3段階の機能レベルがあるのですが(最近の状況はわかりませんが、hot swapまで行くとだいぶ動作が怪しかったものでした)、レイアウトリソースの更新はwarm swapのレベルで実現しています。これがhot reloadに近い存在です。ちなみにhot swapは実行中のコードの差し替えも行うもので、これはVisual Studio使いにはedit and continueと言えばわかりやすいでしょう。XamarinにもLive Playerという機能があります(de:codeでは川合さんのセッションで紹介されていたもの)。

所属とか組織とか

最後におまけですが…Xamarinは合併直後はAzureというかGuthrieの下に雑に統合されていたものが、VS/mobileチームということになって、グループとしてはVSということになったみたいです。それに伴って、Test CloudやらApp Centerやらといったサーバー関係のチームはXamarinからサーバー製品のチームの下に再編成されたようです。もともとtest cloudはless painfulを買収して成立したチームですし、独立性は高かったので、あまり違和感はないですね。

そういうわけで、App Centerなどのサーバー製品はXamarinとは無関係になり、個別に発展していくことになるでしょう。われわれは本来のXamarinとしてMonoを中心としたフレームワークの開発に注力していくことになりそうです。

*1:ちなみにこれはWeb版だけでなくデスクトップ版クライアントでも同様です。表示しているのはInspectorと同じWeb UIなので

Xamarin最新情報 2018(仮) @ de:code 2018

技術書典4が終わって放心状態で過ごしているatsushienoです(参加してくださった皆さんありがとうございました)。MonoDevelop本がまあまあ売れて、MML本は完売した上に電子版も売れてくれて赤字にならずに済んだので喜んでおります。まあ次は日常のコーディング活動に支障を来さないようにしよう…

技術書典4でリリースした書籍はboothで電子版を販売しています。

xamaritans.booth.pm

xamaritans.booth.pm

MythBusters他既刊を何冊かComic ZINさんに現場でお渡ししてきたのですが、まだ入庫作業の連絡が何も来ていない状態です。そのうち秋葉原店に並ぶのではないかと思います。MML本は完売となったため電子版のみです。再販の予定はありません(ゴメンナサイ。採算がとれる気がしないので)。

Xamarin最新情報 2018(仮) @ de:code 2018

さて今回もお知らせです。今日まで「MSに出社しないで10ヶ月(たぶん)」を記録していたのですが、あんまし関係なく因果が巡り巡って(?)、de:code 2018でXamarinの最新情報を話すトラックを担当することになりました。

https://www.microsoft.com/ja-jp/events/decode/2018/sessions.aspx#AC09

MSのイベントに何度も参加している人にしか分からないかもしれませんが、de:codeのセッションにはレベルというものがあって、100/200/300/400/500の中から設定するのですが、わたしが自分で設定できるようになっていたので、300としました(昨年は500にしたので、monoのJITに踏み込んだ話をしましたね)。300のセッションならこれくらいの密度の話を用意しておくべきかなという意識に基づいた設定です。実のところ、わたしも雑な話しかしない予定です。そんなに難しい話にはならないと思います。最近あんまりニュースフラッシュ的な話はしていない(というか過去や未来の話をしても現在の話をあまりしていない)んですよね。昔はそこそこやっていたんですけど。

Test CloudやApp Centerといったサーバーまわりの製品がXamarinからサーバー製品のチームに移管された現在、Xamarinは原点に立ち返って(?)、フレームワークであるところのMonoを中心に、主にクライアントサイドで展開する各種プラットフォーム、そしてツールチェインとIDEを扱うことになるでしょう。

.NET Standard化の流れがクロスプラットフォーム側に押し寄せてくる中で、MSBuildを中心とするビルドシステムの混沌を、IDEサポートも含めて整然と解決していくことができるのか、というのが目下のわたしの注目するところで、当然ながらビルドサーバー製品でも問題になってくる箇所のはずですが、わたしはノータッチなので、関連製品のセッションを担当するスピーカーに質問してくるとよいでしょう。ヒントというほどでもないですが、マルチターゲットビルドの話についてMVP Summitで聞いてきた勢もいるはずですね。

クロスプラットフォームという観点でXamarinを語る向きには*1、ReactNativeの隆盛やKotlin/NativeやFlutterの登場、そしてそれらが明らかにしてきたニーズに、Xamarinがどう回答していくかも気になると思うので、その辺も話題にしたいなあとは思っています。

.NETエコシステムとしての包括的な話は別セッションであるのですが、秘密の噂によるとどうもこれがわたしのセッションの裏番組になりそうなので、そうなると多少話がかぶってでもBlazorの話とかもしないといけないのかなあみたいな気持ちになっています。monoランタイムが使われているという点以外は完全に無関係なのですが…。

まあどの話題も、時間との兼ね合いで、上手く盛り込めなかったら封印するかもしれません。わたしとしては、セッション後にはask the speaker的な場所でふらふらしているつもりですし、そもそもこの日以外でも健全なコミュニティにはいつでも出向いて話をするつもりでいるので、聞きたい話などがありましたらmastodontwitterなどで伝わるように書いておいておいてください。時間の許す範囲で何かしら話せることを用意していくと思います(間にGoogle I/O参加を挟むので割とタイトかもしれない…)。この話をすると諸方面から「いっそGoogle I/O報告会@de:codeにしてほしい」と言われるのですが、さすがにそれは客層が合わない()と思うので、セッション時間外にでも訊いてもらえればと思います。

*1:たまに勘違いされている気もしますが、Xamarinはむしろネイティブプラットフォーム指向のフレームワークなんですよね。BCLが一緒なだけで。

技術書典4新刊によせて

はいどーも! atsushienoです。今回は技術書典4の新刊のお知らせです。

Xamarin Mythbusters / MonoDevelop Masters Book

技術書典4におけるサークルXamaritansはき01、新刊はXamarin Mythbusters / MonoDevelop Masters Bookです。

techbookfest.org

見本ページなどもサークル用のgithub.ioページで公開しています。

今回のサークルの方針

今回はサークルの方針をどうするか、とても悩まされる回になりました。わたしとしては個人としてとにかく音楽技術系のネタを出せるようにしたいので、これは自分だけになりそうだな…というか音楽系で書ききるネタ無いな…でも売り子さんいないと自分が当日イベントスタッフで狩り出されるからサークルとしてアウトになる…*1という事情から、サークル申込がFIXしてサークル名が確定する頃には「やっぱXamaritansとしての新刊は出すべ…」というモードになりました。

(「出ない」という選択肢もありましたが、Xamaritansの本がまだ割とあるので、もう少し売り出しておきたいなあという気持ちです。5月末まではboothでも販売するつもりなのですが、在庫管理費が爆上がりする予定なので、今後はオンライン販売もしなくなる予定です。)

それで執筆者を募集し始めたわけですが、それまでずっと「今回は(音楽で)自分だけで出そうかな〜」みたいなモードでtwitterなどにも書いたりしていたので、執筆者が集まる感じにはならず、とりあえずスタッフは何とかなるやろ…という感じで3月から1人で1冊書いて体裁が整うであろうMonoDevelop本を書くことにしました。これが、本書の大半が"MonoDevelop Masters Book"となった経緯です。

第1章(Xamarin.iOS

3月も後半になってきて、いよいよ売り子がいなくてヤバいしどうにかしないと…となっていたところに、ひらのさん @ailen0ada がひとつiOSネタで書いて売り子もしてくださるというので、お願いすることにしました。それで上がってきたのが、第1章のXamarin.iOS に翻弄されないために ̶̶ その傾向と対策です。

技術書典の新刊の案内を出す時に、いつも各章の内容を広告過剰気味に(!?)まとめるのですが、この記事は掛け値なしに、ひらのさんレベルの開発者が開発中の問題に遭遇した時に、どうやってxamarin-maciosのソースコードまで踏み込んで問題を解決するか、というやり方が文字で読めるようになっている貴重なものです。

残り(MonoDevelop

そういうわけで、残りは全てMonoDevelopのコンセプト・アルバムのような内容です。MonoDevelopを素の状態で使っている人は多くないかもしれませんが、Xamarin StudioやVisual Studio for MacはUnityも含めて幅広く使われているはずなので、これらを使ったことがあって、何となくどんなものか分かるという開発者が第一の対象読者ということになります。

ただ、MonoDevelop本といっても、MonoDevelopの使い方みたいな誰でも書ける(?)話を書くつもりは無かったので、今回の内容はMonoDevelopは何で/どのようにIDEなのか?という観点で、機能と仕組みを解説しています。IDEはアドイン機構を使って自分の好きなように機能追加できるし、何ならC#テキストエディタデバッグサポートだってアドインなんだし、それらはこれこれこういう感じで実現しているんだ、といったことが分かるように解説するようにしています。あと、何より、MonoDevelopの開発スタート当時から観察しているわたしだけしか知らなそうな話をまとめたりもしているので、歴史記録係(?)としての役目をひとつ果たしたような気持ちになっています。

当初は「少なくとも30ページ、がんばって50ページくらいは書いて1冊の本としての体裁が整うようにしたい…」というローなテンションで書いていたのですが、最終的にはこの部分だけで100ページ弱になってしまいました。

本編は以前の執筆メンバーでもある中澤さん(@muo_jp)と杉田さん(@toshi0607)のおふたりから神レビューをいただいて、読み進め方に難のあった部分などを多々修正できています(本当にありがたいです)。

表紙

当初、今回も絵師に表紙をお願いしていたのですが、依頼して慢心していたら直前になって「本業が忙しくなって描けなそうだ」ということになってしまい、やべえ…と思いながら無理やりフリー素材*2をこねくり回して乗り切りました。

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英霊召喚したつもりだったのですが、絵師に「猿が感電している」と言われてかなしい思いをしました() 絵師にはその後裏表紙をでっち上げてもらってpsdへのレイアウトもお願いできたので、この方面は助けていただきました。

MMLコンパイラmugeneによる音楽制作ガイ ド(あるいは、1週間で作るオンデマンド同人誌)

さて、実は今回もう1冊新刊があります(!?) 自作のMMLコンパイラのガイドブックです。

Xamaritansの入稿を終えた先週の後半から「もともと音楽技術系の本を出したいって言っていたのに、蓋を開けてみればXamarinサークルじゃん…これ自分が一番やりたかったことじゃないし何か間違ってる…!」という気持ちになり、それならせめてコピー本でもいいからなんか音楽ネタを出そう、と思ったのでした。とはいえ、いま着手しようと思っている方面はコードを書いてからでないと書く意味がなく、それならMML打ち込みまわりで現状をまとめたほうが良いだろうと、金曜の晩に腹づもりを決めて、土日の空いている時間で書くことにしました。

いざ書き始めてみると、土曜1日で20ページくらい上がって、しかし内容は予定の半分くらいしか出来ておらず、日曜も他の用事をこなしつつ集中して書いたら30ページくらいになってしまい、それでも7割方しか書けていなかったので、これはもう1日使おう、と決めて火曜に休みをとって、サンプルや画像を取り込んだら最終的に3日で48ページの本になってしまいました。

3日目は表紙をでっちあげる作業もしていました。こんな感じです。自分のUbuntu環境でCMYKなpsdを編集できるのはKritaしか知らないので慣れないKritaでやっています(しんどい)。表面はMIDIプレイヤーのスクショ、裏面はvscodeで開いたMMLのスクショというらくらく構成()です。まあでっち上げにしては悪くないのでは…(!?)

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コピー本にするつもりだったのですが、こんなページ数ではホッチキスで止めるのも無理だし、電子版でいいか…とおもっていたのですが、中綴じのオンデマンド印刷で何とかなりました(印刷所に入稿できる本としてもギリギリのページ数)。間に合わないだろうと思っていたのですが、印刷所にも送れるタイミングで終えられたし、イベント4日前でも何とかなるもんですね。こんな短期間でできるとは。

いざとなったらこのペースで書けるのか…と思いましたが、これは単に「書ける」ネタで「やりたかったこと」だったからですね。人間、やっぱり一番やる気のある作業に着手させるのが一番生産性が高い、「仕事」なんかしているバヤイではないな、と改めて思った次第です(落合陽一っぽさある)。

内容は、MIDIMMLで作曲というびみょいジャンルの作業で拙作コンパイラをどう使えばいいのか、ギターとかベースとかドラムとかどうやって打ち込むの?という、ドキュメントとしてそのままgithubに放り込むのは妥当では無さそうな方向性で書いたガイドブックとなっています。2018年にMMLの本はさすがに売れねーだろ…!と思って、20冊だけ用意してありますが、まあ売れ残ると思うので(慢心)、ほしい方はのんびり来ていただければと思います。特にわたしがブースにいない時は誰にも説明できない内容の本ですので…

技術書典4での出展体制

今回は後半からわたしもイベントスタッフ業を離れることができることになったので、ブースに在籍することにしました。これまで自分が書いて回しているサークルなのに当日の内容説明なども全く出来ずに申し訳ない気持ちだったのですが、今回は(ちょっとですが)正常化されたかたちです。

理想としては、今後も出展するなら、当日スタッフ業は一切やらないというかたちで参加しようと思っています。準備期間も重なって、今なかなか厳しいものがあります*3。自分だけのサークルなら自分が売り子に立たないといけないし、自分がまとめるサークルでは無責任に回すわけにもいかないし…とか、そういう本筋ではないことで悩みたくはないですよね。

そんなわけで、今回までは流されっぱなしでしたが、今後はもう少し確たる方針でやっていこうと思います。

*1:イベントスタッフには他にも自分だけのサークルを持っているメンバーもいるのですが、TechBoosterのメンバーに売ってもらえるという恵まれた体制なので、事情が全く異なるんですよね

*2:Googleでlicensing filterかけた画像検索

*3:これも、必要だから書いているのに「遊んでいるのかな…」みたいな気持ちになってホントよくないんです